朝はパン パンパパン

きっとこの子も、あのときの俺みたいな思い込みにとらわれてしまっているのかもしれない。
そう思うと、あゆむのことが昔の自分と重なって見えて、伝えたいことが頭の中にすっと浮かんできた。かつて青年のこころをとらえていた、狭苦しい檻を取っ払ってくれたひとのことが。
「俺はさ、君と同じくらいの歳のころ、逆上がりができなくて悩んでいたんだ」
「逆上がりが?」
「そう、逆上がり。君はできる?」
あゆむは渋い顔をして、黙って首を横に振った。少年らしい素直な悔しさが見てとれてそれを微笑ましく思う反面、自分に言い訳することが上手くなってしまった悲しさを青年は感じた。