朝はパン パンパパン

ブレッド侯爵夫人は思い悩んでいた。夫であるブレッド侯爵はいたって善良で、人々は彼をパン界随一のモラリストと呼ぶほどであった。
もちろんその善良さは夫人にも惜しみ無く注がれた。こんなに優しく教養もあり、確かな地位もある。そうは思っていても、夫人は彼に物足りなさを感じずにはおられなくなった。
舞踏会で出会ったカレーパン伯爵との刺激的なタンゴ。華麗なる足さばきとともに漂う異国の香りと、スパイスのきいた愛の囁き。
それを思い出すと夫人は中心が熱く火照り、夫が平凡でつまらないパンに見えてしまうのだった。その時に抱く罪悪感も魅惑的なスパイスであることが、夫人の悩みをより深くした。