みそ(さば読み)の日記

2021年05月01日 07時09分

朝はパン パンパパン

新緑のにおいを乗せた爽やかな風が、朝の駅のホームを吹き抜ける。すっかり春だなあと思いつつあくびをすると、横からくすっと笑う声がした。
「おっきなあくび」
今朝も日の出パンの袋を持って、恵美さんが立っていた。挨拶をかわし、いつものベンチに並んで腰かける。昨日よりもちょっとだけ距離が縮んでいるのは、気のせいじゃないはずだ。
記念すべき初デートの日になるはずだった昨日。さっちゃんの話を聞いた僕らは、さっちゃんを家まで送るついでに、大造さんと話をした。
「はい、火曜日の今日はカレーパン」
手に持つ用の紙袋に包まれたカレーパンはまだほんのりあたたかく、さくさく感が伝わってきた。
当たり前のように、僕の分まで買ってきてくれるのが嬉しい。すれ違う他人のままじゃなくなれたことは、僕に訪れたささやかな奇跡だと思う。
「ありがとう、いただきます」
朝からそんな歯の浮くようなことは言えないので、別の言葉に心を込める。
「どうぞ、召し上がれ」
恵美さんがにこっと笑ってくれるだけで僕の胸はいっぱいになったけど、カレーパンは別腹だ。食欲をそそるにおいがぷんぷんしている。
かぶりつくと、期待したとおり衣はさくっと音を立て、中にはスパイシーなカレーと、甘くてほくほくしたものがつまっていた。
「うんっ、おいしい!これはじゃがいもかな、ごろごろしてるのがいいね」

「そうなの!この時期は皮ごとふかした新じゃががごろごろ入ってて、それがまたカレーによく合うの」
嬉しそうに言って、恵美さんもカレーパンをかじる。ほっぺに手をあてて、なんともしあわせそうな顔だ。
「新じゃがだからこんなにほくほくなのか。ところで、さっちゃんや大造さんの様子はどうだった?」
「うん、すこしギクシャクしてたけど、ふたりとも笑っていたよ」
恵美さんはやわらかい顔で答えた。
「そっか、それならよかった」
昨日、大造さんにさっちゃんが塾をたびたび休んでいた理由を話した。もちろん、さっちゃんに許可をもらって。
大造さんは驚いた様子だったけど、落ち着いて話を聞いてくれた。

さっちゃんが話せるところはさっちゃんが。さっちゃんが話しづらそうなところは、僕や恵美さんから。
辛抱強く話を聞いてくれた大造さんは深くため息をついて、
「馬鹿な心配をして、馬鹿なことをしたもんだな」
重々しい声で言った。
「ごめんなさい」
言い訳はなにもせず、さっちゃんは深く頭を下げた。震えるその肩に手を置くと、大造さんは語りかけた。
「幸、顔を上げなさい」
おそるおそる顔を上げるさっちゃんにしっかり目を合わせ、大造さんはゆっくりと、力強い声で続けた。
「幸と美樹ちゃんのしたことは、してはいけないことだ。どんな理由があろうとも、そんなことでお金を手にしてはいけない」

やさしいパンの残り香がするお店の中に、大造さんの声が響く。
「幸も美樹ちゃんも、家のことを心配してくれていたのはわかる。大黒柱としては情けないところだけど。でもな、それでも、私たちのことを信じてほしい。子どもの夢や生活を支えるくらい、できるんだって」
こくりとうなずくさっちゃんを見て、大造さんは優しく笑った。
「まあ、大人になってからはさすがに別だけどな」
おどけた感じで大造さんが言って、さっちゃんにも笑顔が戻った。
パパ活でさっちゃんが得たお金は、恵まれない子どもへの募金に使うことにした。お金を出したパパたちも、子どものために使われて満足なことだろう。

みそ(さば読み)

ゴールデンウィーク中のもちゃんと書いてきたはずなのになにか変だなあと思ったら、1日ぶん抜かしていた。うっかり。

2021年05月01日 07時11分