2020年12月13日 21時47分
ドライフラワー
あれはいつの誕生日だったろう。
ふとした思いつきでプレゼントと一緒に花束を渡すと、君は大げさなくらいに喜んだ。
「花束もらうの、憧れてたんだ」
指先で目元をぬぐい、君は花束も霞んでしまうほどの笑顔を咲かせた。本命のプレゼントなんか、二の次なくらいに。
こんなことでこんなに喜んでくれるのなら、もっと早くにあげていればよかった。これまでもあげようと思ったことはあったけど、それはさすがにキザじゃないかと恥が勝り、先延ばしにしていた。
そんなちっぽけなプライドなんて吹き飛んでしまうくらい、君の笑顔は僕の心を奪った。
それから毎年、誕生日には花束を渡した。そのたびに君は、初めてもらったときのような笑顔を咲かせ、僕の心を絡め取っていった。
君は花束が枯れてくると、逆さに吊るした。
「てるてる坊主みたいな効果があるの?」
と僕が聞くと、君はけらけらと笑った。
「なにかご利益があるといいんだけどね。乾燥させて、ドライフラワーにするの」
えらく原始的だけど、効果的な方法だなと思った。
みずみずしかった花は逆さまに吊るされると命が抜けていくように、日に日にその豊かな色合いを落としていった。何かを永らえさせるとは、そういうことなのかもしれない。
色彩を失うかわりに、永遠を願う。
シーソーがどちらかに傾いてしまうように、そのバランスはとれない。奇跡的に釣り合いが取れたとしても、それはほんの一瞬のこと。
神様は僕たちに幸福を与え続けるほどやさしくない。
僕たちのその奇跡の一瞬は、あっけなく崩れ去った。いや、奇跡の一瞬なんて思ってたのは、僕だけだったのだろう。
去年あげた花束を吊るして作られた、僕たちの色んなシーンを見てきたドライフラワー。それもそろそろ枯れつき、その役割を終えようとしていたころ。
今年はどんな花束にしようと、幸せな悩みで頭をいっぱいにしていた。でも家に着くと、その悩みから解放された。鳥を籠から放つように、あっけなく。
テーブルの上、枯れた花を挿した花瓶の足元に、君の几帳面な字で書かれたメモが挟まっていた。
『今までありがとうございました』
シンプルなメモ用紙にふさわしい、シンプルな言葉。
1回見ただけでは内容を飲み込めず、何度か見て、小さく声に出して、ようやく内容を飲み込めると、僕は思わずそのメモを引き抜いた。
するとその拍子に花瓶はバランスを崩し、テーブルに倒れ、ドライフラワーが無惨に散らばった。
君がいなくなった分だけ広くなった部屋を見て、乾いた笑いが喉の奥からあふれる。様々な思い出が脳裏をよぎり、パッと咲いては萎びていく。
枯れた花びらをそっと指先でつまむと、はかなくはらはらと崩れ落ちる。 まるで最初から、そこに何もなかったかのように。
おつかれサマーするめちゃん
(;_;)
2020年12月13日 21時52分
みそ(鳩胸)
おつかれサマーするめちゃんさん ずっと形が変わらないものなんてないのだと思います。
2020年12月13日 22時16分