2020年11月30日 22時04分
半尻緒方 第1話
マルマメ株式会社。発酵食品と言えばやっぱりマルマメ!というCMでお馴染みの、日本の食卓を支える大企業だ。たいていの家には、マルマメの味噌や醤油が常備されている。
緒方もコージーも発酵技師としてこのマルマメに勤務し、日夜新商品の開発に明け暮れていた。
「緒方の旦那!ていへんだあ!」
緒方の率いる第一発酵研究部に、すっとんきょうな声が響いた。
声の主は飛脚の吉岡伝一郎。引き締まったからだを惜し気もなく晒し、褌一丁でだだっ広いマルマメ内を日夜駆け巡り、手紙や物資の配達をしている。
さまざまな部署に出入りするため、飛脚たちはいろんな噂話をいち早く耳にする。誰それがくっついたとか、○○所長は実はパン派だとか、はたまた各派閥の動向まで。
情報を制するものは発酵を制する。貴重な情報源である飛脚を味方につけることは、出世に大きく関わるのである。
「なんだい、伝さん。尻に吹き矢でも食らったみたいに慌てて」
「尻に吹き矢どころじゃねえ!尻が4つに割れちまうくらいの大事だ!」
「そいつは穏やかじゃないね」
いつにない伝一郎の様子に、緒方は眉をひそめた。
「いいかい、落ち着いて聞いてくれ。味噌和田常務が、コージーの後ろにつきやがった」
緒方はぽかんと口を開け、やがて大笑いした。
「あははは!伝さん、エイプリルフールにはまだまだ早いよ!」
「このにぶちん!わざわざ冗談言うために、こんな息切らして走ってくるもんかい!」
「えっ、マジなの?」
「マジもマジ、大マジよ」
「ちょちょ、ちょっと待って!?どういうこと!?」
味噌和田常務は緒方の才能を買い、社内のあれやこれやの政治的な駆け引きとかを助けてくれていた。
だからいかに緒方がちゃらんぽらんでも、社内では肩で風を切って歩けた。それがライバルであるコージーに寝返るだなんて。
「えっ、それってピンチじゃん!」
まだまだ味噌和田常務の力を借りて、経費で落としたいあれやこれやがあるのに、そんなことになっては早晩にも首が回らなくなる。
緒方、まさしく絶対絶命の大ピンチである。