みそ(旬)の日記

2020年11月06日 21時17分

半尻緒方 序章

「やられたら尻を出す。尻返しだ!」
エリート発酵技師、緒方康弘。彼は手酷い仕打ちを受けたら黙っておらず、必ず尻を出し返す。
なぜ彼はそのような奇行をするのか。
それは彼の亡き祖母の教えによるものだった。

「いいかい、康弘や。人に何かされても、決して仕返しをしようなんて思っちゃいけないよ。そういうときはね、ぐっと堪えて、尻を出すんだ」
「どうして?」
「昔の偉い人は言ったもんさ、おしりを出した子1等賞って。つまり、尻を出した時点でお前の勝ちさ」
「わかったよ、おばあちゃん!」
そう言って少年緒方は、まだ毛も生えていない愛らしい尻を祖母に突き出した。
「よしよし、お前はよほど素直なかわいい子なのか、あるいはなにも考えていないただのバカなのか。でもね、康弘。尻を全部だしてはいけないよ」
「どうして?」
「丸出しは下品だからね。尻はしおらしく半分だけ出す、つまり半尻(はんけつ)にするのが流儀ってもんさ」
「わかったよ、おばあちゃん!」
少年緒方は純白のブリーフを引き上げ、尻を隠した。見事な半尻である。
「ううん、こうも素直だとやはりただのバカかもしれないねえ…」
祖母の心配も聞こえぬようで、少年緒方は鼻唄まで歌い、半尻をぷりぷり揺らしている。
こうして彼は、ピンチに陥ると尻を出すようになったのだそうな。

そうして現在、発酵界ではその名を知らぬ者はモグリと言われるほどの存在に、緒方はなっていた。馬鹿と天才は紙一重と言うが、そういうものなのか。
彼の発酵理論は奇抜で斬新、それでいて万人を納得させる結果を示し、発酵食品の栄養価や旨味を一段階引き上げた。全世界に日本の味噌や醤油が普及したのは、彼の功績と言っても過言ではない。
まさに順風満帆、破竹の勢いで発酵街道を邁進する緒方であったが、そんな彼に強力なライバルがあらわれた。
マメチューセッツ発酵大学を首席で卒業し、日本の発酵界に猛烈な旋風を巻き起こしたジョン=コージー博士だ。
緒方の発酵理論を静の発酵と言うなら、コージーのそれは動の発酵と言えよう。アメリカ的ダイナミズムのような、そんな感じ。
ともかく今や日本の発酵界は緒方派とコージー派のふたつに大きく分かれ、発酵で発酵を拭う熾烈な戦いが繰り広げられていたのである。