リングの切符15(最終話)

3年後。東京
「有難うございました。またのお越しをお待ち申し上げます」
「いやぁ、すっかり世話になったね。小暮さん」
「いつもご贔屓にして頂き感謝ですよ。大阪でもご利用ください」
誠一郎は東京のホテルにいた。異動し、役職も課長代理となっていた。去年の4月に係長でやってきて、今にいたる。
―去年の1月―
誠一郎は英美と食事の約束をしていた。高級ホテルで、フレンチを食べ、部屋を取っていた。夜勤の仕事を終え、帰ろうとしていた時、支配人に呼ばれた。
夜。
英美と食事をしていた。しかし、いつもの様子と違う誠一郎を見て、英美が聞いた。
「どうしたの?誠一郎。元気ないね」
「…。驚かないでくれるか?」
「何?急に?」
「実はさ、東京に行くことになりそうなんだ」
「東京って…」
「うん、係長昇格と共に、東京へ異動だ」
「そんな…じゃあ、私たち、離ればなれになるってこと?」
「そうだ。でも俺は挑戦したいんだ」
「…。」
「英美、分かってくれるか?」
「…。考えさせて」
「そうか。わかった」その後、二人の会話は続かなかった。そして、自然と距離を置くようになってしまった。
2月下旬。
誠一郎は英美を呼び出した。英美に会うのも今日が最後かもしれないと思ったからだ。約束の時間から20分遅れて、英美がやってきた。
「何の用?」
「単刀直入に言う。俺と結婚してください」
「…。ごめんなさい。もう別れよう?ついていけない」
「どうしてだ?」
「今の仕事辞める。貴方に愛想が尽きたの。東京に行ったとしても、幸せが感じられないの」
「そんな…」
「だから、連絡もしないで。帰るね」英美は行ってしまった。
二時間後
「ちょっと主任、飲みすぎっス!もう帰りましょう」
「なんでい!俺の酒が飲めねぇってのか?キャバクラがいいか?それとも女抱きたいか?」
「やめましょ?フラれたからって自棄になっちゃ駄目ですよ」
「何が自棄だ!なってねーよ。飲みたい気分だったから飲んでるだけだぞ」
「わかりましたよ!キャバクラ行きましょう!」部下が止めるのにも関わらず酒を飲んでいた。ポケットには渡すはずだった婚約指輪があった。
そして、3月中旬。誠一郎は東京へ旅立った。





「うっ…」
英美はロビーにいた。元恋人の様子を窺っていた。課長代理として働く姿を見ていた。そしてそっと出た。

「小暮課長代理。これ、女性から課長代理宛に指輪を預かったのですが…」ベルボーイから指輪を渡された。
「女性から?どんな?」
「正直、スタイル抜群でしたよ」
「…まぁ、いい。預かるよ」
その指輪には、S・Hの刻印があった。
「英美…」しかし、チェックアウトが忙しくなってきた。
「さぁ、これから忙しくなるぞ!皆、心を込めて送り出そう!」

誠一郎は目一杯、お客に笑顔で接した。

tak

切ないお話……。

2020年05月10日 09時06分

米倉恵蔵@エロセクハラミータンスキーな部長

takさん 今回はバッドエンドを選択しました。

2020年05月10日 10時04分