梶原は1個年上のめっちゃヤンキー女子で目つきが悪くいつも男に命令したり怖い感じやった。梶原は留年して高2の時クラス替えで同じクラスになった。
僕が学校帰りにバイトしてたのを誰から聞いたのか、梶原が、するめ君バイトしてるん？わたしでもできるんかな？ときいてきた。
梶原は遊びすぎて出席足らんくて留年になったから親がおこって遊ぶ金をくれなくなったんよと言って、遊ぶ金欲しさにバイトしたいと言った。僕は梶原にも出来ると思うけど、無断で休んだりサボったりしたらバイトクビになるやで、と言った。梶原はわたし真面目に頑張るつもりと言ったので僕は信用してバイト先に紹介して、梶原は僕と一緒のバイト先で働くことになった。梶原がバイトを始めてすぐに、O君という大学生が入ってきた。O君は地味で大人しくて目立たない、服装も地味やし声も小さくて存在が薄い人やった。他のバイト仲間がヤンキーが標準、あとはオカマのおっさんとか風俗上がりのお姉さんとか強烈なキャラの人が多かったし、O君は影のような静かな人で、大学生やのに高校生に命令されても、はいわかりましたと少しかすれた感じの消えそうな声で、でも爽やかで真面目そうな感じの良い青年という風やった。僕がO君なんでバイトしてるん？と聞いたら、親に無理して大学行かせてもらってるし家に少しお金入れたいんよと言ってた。梶原とO君はおもに日曜日にシフト入ってて、僕は平日やったから2人とはバイト先ではあまり会うことはなかった。夏休み明けて、梶原が、学校で僕に、するめ君ありがとう、わたしするめ君のおかげで幸せになれた、と言った。どういうことなん？と聞いたら、わたし、O君と付き合ってるんよと言って僕は驚いた。え、O君てあの地味な大学生のO君？僕は思わず聞き返した。梶原はうふふと笑って、するめ君、知ってた？O君レスリングのチャンピオンなんよ、と言った。僕はさっきの10倍ぐらいもっと驚いて、マジかーーー！と叫んだ。脳ある鷹は爪隠すということわざはまさにこの事やと僕は思った。梶原は、O君がわたしのことを可愛いって言って大事にしてくれるんよと言ってめっちゃ嬉しそうやった。
確かに梶原は夏休み前よりなぜか可愛くなってた。コワモテでヤンキーな梶原は昔からお嬢様だったみたいになってた。梶原が、うちの親が、するめ君に会ってお礼を言いたいってしつこいからうちにきてと言うから梶原の家に行った。梶原のお父さんは土建会社の社長さんで家も豪邸やった。お母さんは美人でお姉さんはミスコンで優勝したという超絶美人やった。お父さんはそこにはおらんかったけど梶原はきっとお父さん似なんやろなと察した。梶原のお母さんが、バイト始めてから真面目になってするめ君のおかげです、ありがとうと言いケーキを出してくれた。お姉さんもそこにいて、妹がお世話になってますと言った。梶原はパタリロをヤクザにしたみたいなブサイクやのにお姉さんは雑誌のモデルさんみたいな綺麗な人で、梶原はいつも自分とお姉さんを比較して生きてたんやろなぁと思うと梶原よく死なんかったな、えらいぞ、と僕は思った。金はあるから甘やかし放題やったろし、梶原がグレる要素満載やな、僕やってこんな家庭やったらグレてたんかもな、などと思った。
お母さんとお姉さんにバイトのことやO君の事などを聞かれたので、梶原は真面目に休まずバイトしてるし学校も休んでないし、O君は真面目を絵に描いたような人やと思うと僕が言うとお母さんは泣いてた。お姉さんにもありがとうと言われた。
高校を卒業して1年ぐらい経ったとき、梶原とO君が結婚したと人伝えに聞いた。
結婚式に出た人が、梶原がするめ君のおかげやからよろしくと言ってたよと言って、僕は何にもしてないし、梶原が前向きに真面目に頑張ろうって思ったから幸せになれたんやと思った。
僕も今、仕事真面目に頑張ってて、それでふと、梶原のことを思い出した。梶原は一大決心をして真面目に休まずにバイト来たり学校来たりしてたんやろなぁ、それでええ出会いがあったんや、そう思った。梶原とO君が幸せでありますようにと願ってる。