2019年10月12日 11時05分
台風の日には水族館に行こう。
水族館いきたい。
マンボウを見たい。
死んだ目付きで、俺は死んでるんだか生きてるんだかわからないマンボウを見つめる。
まだ展示されてるってことは、多分こいつは生きてるのだ。でもついさっき死んだかもしれない。飼育員も、可愛いげのないこいつを内心うとましく思っている。だから必要最低限しか関わらない。
みんなニモに夢中だ。正式名称はニモじゃないのに、映画のせいで未だにニモと呼ばれ、ひょろひょろ泳いでいる。集団で戯れている。かんわいーとか言われてる。インスタにバエバエしてる。
そんな大人気の水槽から遥か離れて、一番端の薄暗い水槽の、さらにその水槽の中のはじっこで、マンボウはただ浮いている。右上に浮かんでいる。壊れたカーソルキーのように微動だにしない。泳がない。水槽が狭いから。
一日中見ていたい。
言葉にすれば簡単だが、俺は五分たたずに満足してしまう。だってこいつ、動かないもん。残りはペンギンに費やそう。ペンギンはとてもいい。何してても可愛い。憎たらしいほど可愛い。俺はポケットに手を突っ込んだまま、その場を去ろうとする。
そのとき、マンボウと目が合う。
力強い瞳が、俺を見下した。
水族館にいきたい。
マンボウを見たい。
そしてマンボウに見られたい。
マンボウさんに比べたら、俺なんてちっぽけで卑屈で、くだらない存在なのだ。
ああ、マンボウさん。
寄生虫とかいるんだってね。怖い。