2017年11月16日 21時13分
ミソラ
タグ: ミソラ
20XX年。黒柳松子は未知の生物と対峙していた。
「これは、いったいなんなの!?」
いつもの朝。味噌汁を仕上げるために冷蔵庫から味噌を取り出そうとすると、勢いよくなにかが飛び出してきた。松子は台所によく出るアイツかと思ったが、その形状は大きく異なっていた。
調理台に乗った手乗りサイズのそれは恐竜のような姿をしており、太く短い二本の足で立っていた。表皮は茶色く、所々に表皮よりも薄い色をした粒々が見える。
松子がおそるおそる近づくと、どこか覚えのある独特のにおいがした。
「まさか味噌のにおい…?」
「ミソー!」
松子の声に答えるかのように、謎の生き物が高い声で鳴いた。心なしか嬉しそうに尻尾を振っている。
「ああ、なんなのいったい。とりあえず、味噌汁を作って落ち着きましょう」
開けっぱなしになった冷蔵庫の中を見ると、味噌のパックはきれいに空になっていた。
「ウソ!?昨日買ってきたばかりなのに、なんで…」
「ミーソ…」
謎の生き物が申し訳なさそうな鳴き声を出して、しょんぼりとしている。
「まさか、あなたが食べたの?」
「ミーソ…」
質問に答えるように、はっきりと頷いた。どうやら松子の言っていることがわかるらしい。
「ちょっと、あんな量を一気に食べたら塩分多可でしょう!病気になっちゃうわよ!」
そんな心配にいきつく松子の思考回路はショート寸前である。
「ミソッ!」
謎の生き物は心配無用とばかりに胸を張った。
「って違う、そうじゃないわ。お味噌がないのにどうやって味噌汁を作ればいいのよ!」
松子にとって朝の味噌汁はよっぽど外せないものらしい。得体のしれない生き物よりも、よっぽど重要なようだ。
嘆く松子を見て謎の生き物は決意を固めた目になり、ちょこんとお玉に乗っかった。
「ミソー!」
「えっ、何してるの?いたずらはやめてよね、もう」
「ミソ!ミソ!」
お玉から下ろそうとする松子に、謎の生き物は豆腐とワカメの入ったお鍋と自分を交互に指差した。何かを必死に伝えようとしているようだ。
「えーと、あなたをお鍋に入れればいいの?」
「ミソッ!」
謎の生き物はそう!と言わんばかりに頷いた。
「そんなのダメよ。すっごく熱くて溶けちゃう!しょうがないから今日はすまし汁にしましょう」
「ミーソ…」
がくりとわかりやく落ち込む謎の生き物に、松子は思わず微笑んだ。
「たまにはいいわよ。けどもう、お味噌を勝手に食べたらダメよ?」
「ミソッ!」
「いい返事ね。ええと、名前がないのは不便ね。そうだ、ミソラって名前はどうかしら?」
「ミソー!」
嬉しそうに尻尾を振るミソラに、松子はけっきょくこの生き物ってなんなんだろう、と今更な疑問を抱いた。